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コラム

点と直線の距離の公式についての一考察

点と直線の距離の求め方は,高校数学でなくとも中学生でも理解できる内容であるが,求められた式から点と直線の距離を直感的に把握することはなかなか分かりづらい.特に分子の絶対値の中がなぜ点と直線の係数の掛け算のような形になるのか,なるべくそれがわかるような説明方法を考察してみた.

ここでは点を通る新しい座標系を導入する.結果この座標系では直線と原点の距離を求めることになる.以下証明.

点$A(p,q)$と直線\(B:ax+by+c=0\)の距離\(l\)を求めよう.さてはじめに点\((p,q)\)を通る新しい座標系\(x'-y'\)を考える.すなわち \[ x'=x-p \\ y'=y-q \]

座標系\(x'-y'\)では直線\(B\)は\(a(x'+p)+b(y'+q)+c=0\)より\(ax'+by'+(ap+bq+c)=0\).また点\(A\)は原点なので距離\(l\)は原点と直線の距離を求めればよい.ここで直線\(B\)に直行する直線\(C\)の方程式を求めよう.直線\(B\)の傾きは\(-a/b\)なので求める直線\(C\)の方程式は \[ y'=\frac{b}{a}x' \]

これより直線\(B\)と\(C\)の交点\(D\)を求めると\(\left( \frac{a(ap+bq+c)}{a^2+b^2}, \frac{b(ap+bq+c)}{a^2+b^2}\right)\)

よって原点と点\(D\)の距離\(l\)は三平方の定理より \[ \begin{array} \\ l && = &&\sqrt{ \left\{ \frac{a(ap+bq+c)}{a^2+b^2} \right\}^2+\left\{ \frac{b(ap+bq+c)}{a^2+b^2} \right\}^2} \\ &&=&&\frac{\sqrt{ a^2(ap+bq+c)^2+b^2(ap+bq+c)^2}}{a^2+b^2} \\ &&=&&\frac{\sqrt{a^2+b^2}|ap+bq+c|}{a^2+b^2} \\ &&=&&\frac{|ap+bq+c|}{\sqrt{a^2+b^2}} \end{array} \]

この証明方法だと距離\(l\)の分子の絶対値にあらわれる\(ap+bq\)の項は点\(A\)を原点とみなした座標変換の帰結であることを明確に示すことができた.さて原点と直線\(B\)との距離は\(p,q\)が\(0\)なので \begin{equation} \frac{|c|}{\sqrt{a^2+b^2}} \label{e1} \end{equation}

原点からの距離を表すこの式はとてもすっきりしている.2乗すると\(c^2/(a^2+b^2)\)となり,きれいな数式が現れた.さてせっかく求めた式\((\ref{e1})\)についてもう少し考察してみよう.点と直線でも原点から直線の距離に限ると理解しやすそうである.ところで直線\(B\)は\(x\)軸,\(y\)軸とそれぞれ\(-c/a, -c/b\)で交わる.この2点を\(E, F\)としよう.ところでここでは直線のを標準形として\(ax+by+c=0\)を用いている.なぜ一般的な直線の方程式\(y=ax+b\)で考えないのだろうか.それこそ,前者の標準形が式\((\ref{e1})\)の対称性を生み出すからだ.ところで先程の2点\(E, F\)の\(x\)軸,\(y\)軸との交点は定数項\(c\)に比例していることがわかる.そして変数\(x, y\)の係数\(a, b\)は,\(c\)の値を固定して考えた場合,小さくなると点\(E, F\)は原点から遠ざかり,大きくなると近づく.すなわち\(a, b\)の値は原点と直線の距離が反比例しているので式\((\ref{e1})\)において係数\(a, b\)は分母に現れることがわかる.これが式\((\ref{e1})\)の数学的解釈だ.

式\((\ref{e1})\)を三角形の面積から求めてみよう.\(\triangle AEF\)は直角三角形なのでその面積は\(|(c/a)\times(c/b)\times1/2|\)となる.さて直線\(EF\)の距離は\(\sqrt{(c/a)^2+(c/b)^2}\)より \[ \begin{array} \\ \frac{1}{2}\times l \times \sqrt{(c/a)^2+(c/b)^2} && = && \frac{1}{2} \times |\frac{c}{a}\times \frac{c}{b}| \\ l && = && \frac{|\frac{c}{a}\times \frac{c}{b}|}{\sqrt{(c/a)^2+(c/b)^2}} \\ l && = && \frac{|c|}{\sqrt{a^2+b^2}} \\ \end{array} \]

以上.

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